美術の中の家 第10回
人小屋の住人
(善福寺公園編)

2019.11.01高島 亮三
美術の中の家 第10回 人小屋の住人(善福寺公園編)

【これまでのあらすじ】美術家、高島亮三(2003年当時31歳)は、美術表現の拠り所として、半年近く犬小屋との散歩に熱を上げていたが、その過程における美術表現上の浮気をキッカケに、年末に犬小屋と破局。それから歳月は流れ、翌年の春を迎えた。

皆さんは東京都杉並区の最奥地に位置する都立善福寺公園をご存知でしょうか。井の頭池・石神井池と並び、古くから武蔵野三大遊水池とした知られた池ではありますが、最寄駅から歩いても20分以上かかる、まさに「杉並のチベット」と呼ぶにふさわしい立地条件により、前述の二つの池に比べて静かな佇まいを今に残しています。詳細はWikiをご覧ください(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%84%E7%A6%8F%E5%AF%BA%E5%85%AC%E5%9C%92)。ところがそんな閑静な公園で、2002年から突如として現代美術を標榜する野外アート展が、毎年開催されるようになりました(会期は毎年3週間ほど)。

わずか出品者3名

この野外アート展、初回は善福寺公園の片隅で、わずか出品者3名によるささやかな展示でしたが、その閑静な環境と即物的な展示物の違和感のコントラストに眉をひそめる方もいたとかいないとか。しかしながら、その後の関係者の忍耐強い努力により、今では「野外×アート×まちなか トロールの森」と名が示すように、西荻窪~善福寺界隈に拡がる一大イベントに成長しています。このコラムがアップされる頃には、「トロールの森2019」が開催されている事でしょう(11月3日(日・祝)~23日(土・祝))。今年はぜひ、西荻窪~善福寺界隈で芸術の秋をお楽しみください(http://www.trollsinthepark.com/)。さて、本題に戻りまして、2004年5月。この年の野外アート展「トロールの森」でのこと。

善福寺池のほとりに畳一帖程度の床面積で人の出入りもできる犬小屋風の建物が3軒ほど設置されました。


この作品こそ、私が半年間の沈黙を破って新たに制作した人小屋(ジンネル)であります。人小屋(ジンネル)の制作秘話を語るにあたっては、犬小屋(ケンネル)との別れの原因にもなった、本コラム第8回で登場した八王子の山奥の中に整然と配列された戸建住宅群を外す事はできません。

大塚山から俯瞰した西武北野台団地

その光景に直感的に感じた印象を、自分なりに考察して導いた検証点は『日本人の「持ち家」に対する強いこだわり』という点であります。

森を刈り 谷を埋め 川を殺し
西東京(ウエストトーキョー) 多摩の丘(マウンテンタマ)埋めつくす白い家
(月島 雫「コンクリート・ロード」より一部引用)

などと中二病な少女に揶揄されてでも「夢のマイホーム」にこだわる理由は何なのでしょうか。本来この考察を深めていくには、持ち家の一つでも購入し、そこで営む必要性がありますが、当時の私は西荻窪の築30年以上の木造2階建アパート(キッチン4.5帖・和室4.5帖・和室6帖=2K)に妻と細々と暮らしていました。到底持ち家を得られる段階ではありません。そこで、最小間取りの個人宅を製作し、その中で「住」に関する思考を巡らせることをコンセプトに作られたのが本作品です。まずは自分が「入居」する前に客観的な観察が必要と判断し、来園者の同行を追うことにしました。公園の猫は犬の気配を感じたのかこれ以上は近寄らず。同様に大人たちも黙殺を決め込んでいます。


やはり、いつの時代も未来を切り開いていくのは若者ですね!



後から近寄ってくる大人たち。さすが気高きプライドの猫は、周囲になびくような事はしません。

俗に言う「参加型アート」としては、来園者の皆様には楽しんでいただいている様子ではある。しかしながら、個人的にはこんな牧歌的な事を求めてこの作品を制作したワケではない。自分自身も中に入れば入ったでなかなか快適に思ってしまうワケですが、これでは山登り用のテントと大差ないではないか。何かが足りない!

私はこんな甘ったるい表現を許せない。もっとカッティング・エッジ(【補註】美術界隈における死語。今となっては東京藝大の「先端芸術表現科」の名称にその名残を留めるばかりである。他にも「(視点を)脱臼させる」や「~させる装置としての作品」などといった恥ずかしい言い回しの美術界隈死語がある。)な表現をしたい! そして私は、この人小屋(ジンネル)に美術表現として足りない要素は、この家で生活を営む「行為」表現であることに(この段階では)思い至ったのである。思い立ったら吉日。私はその後、この人小屋でどのような「行為」表現をするか考察し、それを実行に移した。そこらへんは次回、「人小屋の住人(遊工房アートスペース編)」で詳しく。

次回、ちょっとヤバそうな予感…


【付記】
本文中にも出てきた今年の「トロールの森2019」のまちなか企画に諸々参加しています。「美術の中の家」執筆者の現在の到達点を是非ご高覧ください。
①遊工房アートスペースでの個展「1984+36」(http://www.youkobo.co.jp/exhibition_events/2019/10/ryozo-takashima-198436.html
②桃井第四小での展示「フォーチュン・ピーチ」(http://www.trollsinthepark.com/portfolio/%e9%ab%98%e5%b3%b6-%e4%ba%ae%e4%b8%89%e3%80%80takashima-ryozo/
③桃井第四小/ゆうゆう善福寺館でのイベント「0円均一」(http://www.trollsinthepark.com/portfolio/%ef%bc%90%e5%86%86%e5%9d%87%e4%b8%80%e5%96%84%e7%a6%8f%e5%af%ba%e5%95%86%e5%ba%97%e8%a1%97/

高島 亮三
高島亮三(たかしまりょうぞう、1972年8月4日~)は、日本の美術家。東京都保谷市(現・西東京市)出身。趣味は、路傍の石採取・コケ鑑賞・ミニ四駆・岡村孝子など。第4級アマチュア無線技士。 http://takashimaryozo.com/