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そんな経験をしたことがある方も、少なからずいるんじゃないでしょうか。
今回は、サン=テグジュペリ原作の「星の王子さま」を舞台化した時のお話をします。
「星の王子さま」
たとえ読んだことがなかったとしても、ほとんどの方は名前だけは聞いたことがあるでしょう。
砂漠に不時着した飛行士は、どこかからやってきた王子と出会います。大人になる中で、何か大切なものを諦めて生きてきた飛行士は、最初、純粋な王子と理解し合うことができません。
しかし、王子の自分の星に置いてきたバラの話や、出会ったキツネの話、これまでの旅の話などのやりとりを経て二人は距離を縮めていき、飛行士は、自分の大切なものを見つけます。
しかし、仲良くなったのもつかの間、王子は自分の家に帰るときがやってきます。王子は飛行士を置いて、蛇に噛まれることで飛行士の前から消えていくのでした。
これまでにたくさん舞台化されてきたこの作品だからこそ、どうやって脚本を書いて演出をするかを考える必要がありました。
そこで物語をそのまま演劇にするのではなく、サン=テグジュペリの他の著作も読んで、彼の作品・人生の根底に流れている「何か」をコンセプトにしよう、と考えました。
そして色々と文献を読む中で引っかかったのが「バラの回想」という本でした。
これは、正確にはサン=テグジュペリの著作ではありません。彼の妻であったコンスエロという人物が、彼との出会いから結婚後の生活を書い本です。これがとても面白い。二人の間に起こる人間模様はまるで恋愛ドラマを見ているようでした。
星の王子さまには「飛行士」という登場人物がいますが。サン=テグジュペリは飛行士としても働いていました。
当時の飛行は、現在とは違い、死と隣り合わせ。しかも、一度飛行任務についたらしばらく帰ってきません。妻であるコンスエロは、その間、不安の中待ち続けることになります。その心の中は穏やかではいられず、時に精神を病んでしまうこともありました。そして、彼が小説家として売れ始めると、周囲がチヤホヤし始め、彼は浮気をしたりもして、そのことが彼女をまた嫉妬などで苛立たせます。
二人は互いに愛し合いながらも、互いに傷つけ合ってしまう関係でもありました。
「星の王子さま」には、「バラ」というキャラクターが登場します。
バラは、王子がいた小さな星に、ある日突然生えてきます。
王子は、バラを見た瞬間、「綺麗だ!」と一目惚れ。バラに水をやったり、風除けのついたてを立ててあげたり、甲斐甲斐しくバラに尽くします。
一方バラは、王子のことが気になっているのに、自分のトゲを王子に見せて「虎が来たって平気」なんて言って強がったり、ちょっとつっかかってみたり。王子はその態度に困ってしまいます。
そして、困り果てた王子は、最終的にバラを置いて星を出て行ってしまいます。
星に残されたバラは、王子を待ち続けることになります。
そして、王子は孤独を抱えて地球に降り立つのです。同じく孤独を抱えた飛行士の元へ。
互いに愛しているが、互いに傷つけ合ってしまう。
これは、まさに「バラの回想」で描かれているサン=テグジュペリとコンスエロのようだなと思いました。そして、そこから見えてくるのは、アンビバレントな関係から見えてくる「孤独感」というのものでした。
この物語のもう一人の主要な登場人物である飛行士も「かつて誰も自分を理解してくれる人がいなかった」という「孤独感」をもっています。
そこで、「孤独」をこの作品のキーポイントにして劇作・演出をしました。
ラストは「一人ぼっちで自分の星に帰って行ってしまった王子」「星でひとりぼっちで眠ったバラ」「王子と別れた後ひとりぼっちになった飛行士」を描いて終わります。
「心がキュッとなる」という感想もありました。
ちなみに、サン=テグジュペリは、1944年、戦争中に飛行機で出撃します。そして、コンスエロを残し、そのまま地中海上空で行方不明になってしまいました。その機体は、50年以上の時を経て、2000年に、撃墜された残骸として地中海で発見されました。
彼は最後まで孤独だったのか。
……今となっては想像するしかありませんね。
私は「孤独」をピックアップしましたが、「星の王子さま」は子供から大人まで、色々な解釈をして楽しめる本です。興味がある方は、ぜひ手に取ってみてください。
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