演劇と空間の密接な関係
第8回 「なにもない空間」

2020.04.18萩谷至史
演劇と空間の密接な関係 第8回「なにもない空間」
「どこでもいい、なにもない空間――それを指して、私は裸の舞台と呼ぼう。ひとりの人間がこのなにもない空間を歩いて横切る、もうひとりの人間がそれを見つめる――演劇行為が成り立つためには、これだけで足りるはずだ。」

演出家ピーター=ブルックは、著書『なにもない空間』の中で、演劇が成立するための条件をこう述べています。舞台上の人間とそれを見ている人間が空間を共有することが演劇なのだ、と。
演劇は、時々映画と比較されるのですが、両者を比べた時の演劇の特性はこの「空間の共有」だと考えています。
 
しかし最近、この「空間の共有」という特性のため、演劇は危機に瀕することになってしまいました。
その原因は、世界中に広がる新型コロナウィルス感染症COVID-19。
止まらない感染拡大は、演劇に携わる人々にとって大きな影響を及ぼしています。
 
ブロードウェイは6月7日まで劇場が閉鎖され、また、下北沢の演劇文化の中心となっている本多劇場グループは運営している8つの劇場を5月6日まで休館にしています。

また、さらに、稽古をする事はおろか、企画を立てる事も難しい状況に陥っています。


稽古は、人間と人間が対面して密にやり取りをするプロセスですし、企画も、いつコロナウィルスが終息するかわからない現在、なかなか先を見通す事が難しくなっています。
 
しかし、私は演劇を続けていきたいと考えています。

16世紀末、ロンドンではペストが流行しました。
その時、街中の劇場は閉鎖され、また多くの劇団が解散しました。
しかし、そのような中でも、劇作家ウィリアム=シェイクスピアは詩作などを続けていたそうです。

現在、多くの演劇に関わる人々が、その文化を絶やさぬようにそれぞれの方法で様々な試みを行なっています。私は、劇作家・演出家として、現在、社会や人々に起こっていることをしっかりと受け止め、新しい作品を考える時間にしたいと思っています。

毎日の読書によるインプットも欠かさず!


演劇は、歴史的に「社会の動乱や時代の変化などを描く芸術」という役割も担ってきました。
今回のコロナウィルスは、社会に大きな混乱をもたらしています。世界中の多くの国々は既存のシステムの変更を余儀なくすることになり、国民も感染への不安の中、制限された生活を送っています。
主宰する演劇団体mooncuproofの次回公演日は未定ですが、劇場で演劇が上演できるようになったら、この日々とこれからの社会についてを描くような作品を上演していこうと考えています。
 
その日まで、皆様お身体に気をつけて、日々をお過ごしください。
萩谷至史
1989年生まれ。茨城県東海村出身。劇作家・演出家。コーヒーとビールが大好き。 mooncuproof主宰。第16回杉並演劇祭 優秀賞受賞。