2019年秋にヨーロッパに入りドイツに落ち着いて、コロナ禍のもとですが、まだドイツにいます。
関わっている子ども関係の団体から、「子どもたちにデザインの授業をしませんか?」という依頼を受けました。
当初は、率直に言ってデザインが苦手な私にとっては、非常に難しい話だなと思いました。結局お引き受けするのですが、その後も紆余曲折さまざまあり、担当の人を困らせてしまいました。。。(その際は、大変お手数をおかけしました!)
今回は指導者の立場となるわけなのですが、私はデザインのレベルとしては、指導という段階まで達していないと思うことがたくさんあります。改めて、自分がデザインに対して持っているこのハードルの高さに気がつきました。
このハードルの高さ(プロのレベルの高さ)から、今まで何度も絶望したり逃げてきました。
でもふと、デザインという概念は、もっと身近で誰でも持っている思考方法や発想なんじゃないか?、そもそもハードルなんてなくて、それは身近な体験の中にあふれているかもしれない、と考えたのです。
つまり、デザインって身近に常にあって、楽しいものだから、今回は、それを子どもたちと一緒に発見する授業にしようと考えました。私自身のテーマを「デザインは身近で楽しいものだと伝える」ということにしたのです。
そう思ったら、子どもの頃の体験を思い出しました。
理科の授業で草の勉強をした後に、帰り道、やたらと草が目にとまって、普段歩いていた道が全く違う景色になった瞬間ができました。
ああ、そうか!こういう体験をしたい!こういう体験を共有したい!
その体験のきっかけとなるような授業にしようと決めました。
そこで、授業の課題は「ドアノブ」です。
皆さんも一緒にやってみましょう。
1. 今いる場所から一番近い位置のドアノブを観察してください
2. 1. で見つけたものと別の種類のドアノブを家の中から見つけてください
3. 1.2.で見つけたものと別の種類のドアノブを家の中から見つけてください
これで家の中に最低でも3つの種類のドアノブがある事を発見したと思います。そして、それぞれのドアノブには特徴があるはずです。回すもの、下に下げるものなどの開け方や、素材や、ついている位置など、いろいろ違いがあると思います。
その違いはなぜあるのでしょうか?
いろいろな側面からの意見があって、実際に授業の中でもさまざまな意見が出てきました。
そこで今度はドアノブ自体の説明をします。
いろいろなタイプがあり、それぞれに歴史があって、さらにこのコロナ禍の元で、考え方が違うタイプのものが出てきていることなどを伝えます。
(これについて知りたい人は是非調べてみてください。)
意見はさらに増えていきますが、まだ答えは出ません。
そこで今度は範囲を広げて、街の中でドアノブを探します。よく見ると街の中には、もっとたくさんの種類のドアノブが溢れています。
家に関するものだけでも、庭に入るドア、駐車場のドア、地下に入るドア、などのノブは全て違います。宿題として子どもたちに、ドアノブを探す課題を出したところ、2日間で300個以上のドアノブの画像が送られてきました。
あの時のうれしさは、子どもと関わっている時だけしか味わえない独特のものなのでしょう。
夢中になってくれているのがわかって、心の底からうれしかったです。
そして集めたドアノブの写真を見ながら、なぜ違うのかを考えてみます。つまり300枚を分類していくのです。回し方、素材などいろいろな方法で分類を行います。
この流れは、私がデザインをしている時に意識している事でもあります。
「発見 or 興味」→「調査」→「分類」をする事で、既存のデザインの傾向や仕組みなどをつかみ、ベースとなる知識を入れます。その後、実際に自分で手を動かしてデザインします。
今回はその分類の部分までを行い、なぜそうなっているのか意見を出し合いました。もちろん私も参加して一緒に考えました。
さて「デザインは身近で楽しいもの」というテーマは伝わったのでしょうか?
参加者の保護者の方のアンケートから、以下のような回答が返ってきました。
◆「ドアノブ」という、普段何気なく使っているものを探す旅は、子どもの興味にきっかけを与えてくれたようで、あの授業以降も面白い形を見つけるたびに息子のマイカメラに撮影して収めています。
◆4歳の下の子も、「ドアノブだ!」と言うようになり、大人から、小さな子どもまで、とても楽しい話題を提供して頂き感謝です。課題の写真は、張り切って100枚以上になってしまい、逆に申し訳ありませんでした。。。
◆息子の足が止まらず、4時間近くの大冒険でした。ただ、枚数を重ねていくと、大人でも内側と外側の形状の違い&理由、パブリックとプライベートゾーンでの形状の違い、使用用途に多いドアノブ形状、、、など様々な気付きがありました。
◆ひとつの物に着目して考えるという事や、身の回りにある様々なカタチにすべて意味があるのだと気づかされた授業でした。
◆娘はデザイン講座に参加して以来、街中の様子を写真に撮るのにハマっています。日常のデザインに目を向ける良いきっかけとなりました。
◆ドアノブの写真を撮りに街に出たおかげで、娘は写真の面白さに気付いたようです。
私も、技術や知識はありませんが写真を撮るのは好きなので、母娘で一緒に街角の写真を撮るようになりました。デザイン授業がきっかけで、また一つ楽しいアクティビティが増えました。
ああ、これが教育の対価なのだと思いました。ビジネスで商品が売れることは違う「消費されていない」感覚を味わいました。若くて未熟、経験の浅い自分だけど、やって良かったかな!と小さくガッツポーズをしました。
今日はここまで
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