電車の旅と出会い

2018.12.21ジラフ


もう何時間も同じ景色だ。初めて見る景色に最初は感動していたが、3時間も同じ景色を見れば、最初に感じたものはない。

ドイツに来て2週間がたった。相変わらず現地の人とドイツ語で会話できているとは言い難いが、自分の要求を一方的に押し付けられるようにはなった。
ここへ行きたい!これが食べたい!写真撮らせて!それらの言葉と、多少の英語と、勢いで会話をしていた。意外といけるもんだな。そう思ってしまうから、語学力が上がらないという事に、最初に気づいてからずいぶん経つ。


今日はケルンに行く。滞在先のブレーメンから電車でおよそ4時間。通路側だったが最初は景色を楽しめた。次々と来る森、滝、村、工場。一瞬で通り過ぎる。気がつくと寝ていた。景色に飽きたのだ。

まだ到着まで2時間ほどある。車内は、ご飯を食べる人、ワインを飲む人、本や新聞を読む人、通路で遊ぶ子供、皆リラックス。私は、日本から持ってきた小説を読むことにした。実は、本を読むのは苦手だ。本を読むとすぐ眠くなってしまう。しかし、この日はかつてないほど集中して物語に入り込んでいた。

15ページほど読んだ頃、座っている私の膝に何かが当たった。顔をあげると、小さな子どもの背中があった。通路で遊んでいた子だ。歳は2歳くらいだろう。茶髪の天然パーマがにあう男の子だった。お母さんは二列前にいた。ぶつかってすぐ行くのかと思ったら、私の膝に寄りかかったまま、二列前のお母さんと何やら話している。どんどん体重を預けてくるのがわかる。これは私に対する信頼か?それとも公園の木と同じ扱いか?おそらく後者だ。木に徹した。動かず、気配を消し、じっとすることだけを考えた。周りの大人たちは笑っている。私は恐る恐る「グーテンターク」と声をかけた。しかし、男の子は見向きもしなかった。私も周りの人たちと顔を見合わせて笑った。

結局一度も目を合わせることなく、男の子はお母さんの元へ帰っていった。

ケルンの駅に着き、目の前の大聖堂を見上げた。
以前来た時より大きく見えた。

ジラフ
1991年東京生まれ。好きな食べ物はアジフライ。