高→低より低→高

2019.01.05ジラフ

よく晴れた。気温は30度を超えている。しかし、湿気がなく、日陰に入れば涼しさを感じる。そんなことより、スタートして3時間ずっと景色が変わり続けている。こんなものは、最初だけ感動してあとは同じ景色の連続に飽きて、眠くなるのが普通だと覚悟していた。しかしここは違った。

私は、フランス南部を流れるドルドーニュ川の上流にきていた。今日はカヌーでこの川を下る。フランスで最も美しい街のひとつと言われている、“サルラ”から車でおよそ30分の所にスタート地点はあった。


初めてカヌーをやったのは北海道。兄と2人で乗り、息が合わず、その場でグルグルと回り、転覆しそうになった。それ以来、5年ぶりのカヌーだ。今回はカヌー上級者のおじさんと組むので特に心配はしていない。

スタートしてすぐ、けっこうスピードが出るし、まっすぐ進むことに必死で前しか見られなかった。「漕ぎすぎだよ!」笑いながらおじさんはそう言った。川の流れを読み、そこにカヌーを委ねれば勝手に進んでいく。もっと早く教えて欲しかった。そしたら、このとんでもない景色をもっと味わえたのだから。

こんな景色は見たことがなかった。広い川幅の両側を、崖に挟まれていた。さらに崖の上には、街や城がそびえ立っていた。良い景色を見たい時には、高い場所を目指し、そこから見下ろすことが多かった。しかし今回は違った。2人しか乗れないこの小さな空間から、見上げることで、この景色の壮大さはより際立つのだと感じた。


崖に挟まれたこの空間を縫うように下り続けた。次々と違う城が見える。時おり街や、気球なども見えた。次々とすぎていく絶景を見ていたら、ゴールが見えてきた。途中休憩をしたり、泳いだりもしたが、気がつけば7時間が経過していた。腕や首は疲れたが、充実感はとてつもなかった。

見下ろすと全体が見え、集合体としての美しさが見える。しかし、見上げると、全体は見えないが、個々の迫力や魅力を感じることができる。景色の見方は2種類あり、間違いなくドルドーニュ川は後者である。

ジラフ
1991年東京生まれ。好きな食べ物はアジフライ。