美術の中の家 第2回
「犬小屋の散歩(渋谷編)」

2019.03.01高島 亮三
美術の中の家 第2回「犬小屋の散歩(渋谷編)」

全国の岡村孝子ファンを失望させたコラム「私の中の岡村孝子」改め「美術の中の家」では今回、やっと本題である「小屋シリーズ」に入っていきます。

若干前置きになりますが… 美大のグラフィックデザイン科を卒業した私ですが、なぜか20代半ばで現代美術に目覚め、当時は「もの派」(http://artscape.jp/artword/index.php/%E3%82%82%E3%81%AE%E6%B4%BE)の真似事みたいな作品を作っていました。

「中央の台は無い方がいいね」と当時の自分に助言したい。

でもそれは所詮、借り物の表現。すぐに表現する意味を見失い、それはそれは陰鬱な20代後半を過ごしていました。そんな精神的に可哀想な私に、さらに肉体的に鞭を打つかの如く麻疹(はしか)を発症。大人の麻疹は本気(「マジ」と読みます。)でヤバい。40℃を余裕で超える発熱の中、文字通り這いずりまわってやっとたどり着いた病院で、なぜか妻に熱冷ましの座薬をお尻の穴に突っ込まれる(女性の看護師さんが気をつかってくれたようですが、それはそれでどうかと…)という凄惨な出来事を体験。でも人間ってのは不思議なもんで、病後は眼に映る全ての物事が輝いて見え始めました。病み上がりに食べたカレーライスの味、一生忘れません。

いらすとや…

いらすとや…

このような経験は、作品の制作面にも大きく影響しました(たぶん)。抽象的だった表現がだいぶ具体的になりました。もの派の真似事時代に意識していたことは当然のことながら「空間」。もっと言えば「空間を空間たらしめる事象」といった感じ。あっ、なんかすごい「現代美術」っぽい。翻って麻疹後に取り組み始めたのが、この「小屋シリーズ」なワケです。

直接のきっかけは杉並区の都立善福寺公園で野外展示の設置準備をしていた時の事です。この公園は近所の犬たちの格好の散歩ルートなのですが、実に楽しそうに犬が行き来しているのを見ていて、ふと私は思ってしまった。「犬たちはいつも楽しそうに散歩しているのに、犬小屋はいつも一人(一戸)で留守番させられている!」からの「犬小屋を自由に散歩させてあげる事こそ、俺に与えられた美術家としての責務である!」展開。麻疹で脳細胞が相当ダメージを受けてたのかもしれません。

そして2003年の春。記念すべき犬小屋の初散歩の日。目的地は訳あって渋谷。当時住んでいたアパートの最寄り駅であった西荻窪駅から乗車しました。

中央線車中。居合わせた乗客の皆さん、関わらないように必死に新聞に目を落としたり、視線をそらしたり。自分だって普段だったら、こんなめんどくさそうな人や物には近寄りたくありません。でも今時ならきっと、スマホで動画撮影&ネット上に晒されて「迷惑乗車の犬野郎」呼ばわりだね。


新宿で中央線から山手線に乗り換え。

渋谷駅下車。

今回の散歩の目的は、動ける自由を得た犬小屋が、その場から永遠に動くことを禁じられた犬に会い、双方の立場が逆転したことを世間に知らしめる事。この時、歴史が動いた。

そんなわけで「犬小屋を散歩させる」ことに我が美術表現の拠り所を見出した私は、これからしばらく、本当の犬小屋が望む生き方(岡村孝子「Kiss」より歌詞の一部を引用。)を求め、各地を犬小屋と徘徊していきます。次回は「犬小屋の散歩(登山編)」です。お楽しみに!

高島 亮三
高島亮三(たかしまりょうぞう、1972年8月4日~)は、日本の美術家。東京都保谷市(現・西東京市)出身。趣味は、路傍の石採取・コケ鑑賞・ミニ四駆・岡村孝子など。第4級アマチュア無線技士。