フィンランドのあれこれ
第2回「 フィンランドの葬式会場の空間」

2020.08.21Aki
フィンランドのあれこれ 第2回目「 フィンランドの葬式会場の空間」

今回は、前回のかわいい幼児教育とは打って変わって葬式について。

私は、フィンランドの葬式に一度参列したことがある。日本の葬式と違い、色々と興味深かった。
私が参列した葬式は、ルーテル教会の葬式。葬式スタッフはいなかった。フィンランド人の死に対する考え方も少し分かった気がする。

葬式の場所は自分が所属する教会
フィンランドでは、国民の70%がルーテル教会に所属している。
教会に所属している人たちは、自分たちが住んでいる近くの教会に登録されている。
教会は、洗礼式や結婚式、日曜礼拝など、様々な用途で使われるという感じで、葬儀会館という場所はフィンランドにはなく、自分が所属している教会で葬式は執り行う。

亡くなってから2週間後くらいに葬式
フィンランドでは、だいたい亡くなってから2週間後くらいの週末に葬式をする。
日本では1日目の夜がお通夜で、2日目に告別式のように2段構成だが、フィンランドではその日1日で全てが終わる。
参列者には、事前に声がかけられる。もちろん呼ばれていなくても教会には行けるらしいが、故人が小さい葬式を希望していたりすると、参列すべきかどうかは考える必要がある。

葬式の間も棺桶を開けることはない
葬式中、棺桶は教会の前方部に置かれている。事前に希望があれば、棺桶を開けて顔を見ることができるが、葬式中に棺桶は開けない。日本のように遺影や、周りに花などは置かれていない。それゆえ、棺桶が教会という空間の中で一番目を引く存在となっている。

黒い服装であればいい
私はフィンランドの葬式事情は知らなかったので、当然服装のことも分からなかった。日本のように喪服はあるのだろうか、身につける小物などにルールはあるのか、コートも黒?靴は?カバンは?服の丈は?

結果、黒なら何でも良さそうだった。

参列者の服は、普段でも着られそうな黒の服が多かった。
ワンピースである必要もないし、スカートの丈は膝より短い人もいた。
黒のタイツはみんな履いていたけど、薄い素材の黒のストッキングの人もいた。
パールをつける習慣もなく、普段使っているだろうアクセサリーをつけていた。
冬ということもあり、黒いブーツを履いている人が多かった。カバンも、小さめの物からトートバッグまで。
コートは黒の人が多かったけど、グレーなどの人もいた。
男性は、黒のスーツで、白いシャツに黒のネクタイというのが一般的だった。

お供えの花は参列者が用意して持っていく
葬式中に、花を棺桶の上や周りに供えるという時間がある。私はてっきり日本のように、ぞろぞろと参列者が並んで、教会にあらかじめ用意してあるお花を供えるのだと思っていた。が、まったく違った。

まず、花は自分で花屋に事前に予約しておくこと。
花には故人に宛てたメッセージカードを添える。
葬式中、一人、または一組ずつ花を添えに前に出ていく。
前に出た時、カードに書いてあるメッセージをみんなの前で読む。

牧師が事前に遺族のもとへやって来て、インタビューをする
葬式の時に、牧師が故人の人生を話す時間があった。
どういう人で、どういう家族や人々に囲まれて生きてきたか。
私は、どうしてそんなに細かいことまで知っているんだろうと不思議だったが、
後になって、牧師が事前に遺族にインタビューをしていたことが分かった。
そのインタビューに加えて、遺族側も故人に関する思い出を書面にして渡す。
それらをもとに、牧師が当日葬式で話す。
もちろんこれは、牧師によって異なり、表面的な言葉で終わる時もあれば、ひとつひとつを丁寧に話してくれる時もあるそうだ。

火葬か埋葬か
フィンランドは埋葬されているところも多いが、最近では火葬を希望する人が増えているようだ。埋葬する場所は十分あると思う。
葬式の最後に、参列者の中から男性が6人出てきて棺桶を外に運ぶ時があった。
その後、棺桶は火葬場へと行く。遺族はついていかない。
雪が溶けた頃、遺族がいつ遺灰を墓に入れるか決める。

フィンランドの2月、雪が墓の上に積もっている

葬式のあとは、故人を偲ぶ会へ
教会の近くにある教会会館へ移動する。
食事をして(牧師も遺族のテーブルで一緒に)、その後に故人にまつわるエピソードを誰かが話す場が設けられる。

この時に、葬式に参列していない人からの電報も読まれる。
花は届いていなかった。故人の写真はそこに飾られている。
グランドピアノがあり、私はそこで一曲演奏した。(事前に頼まれていた。)
故人を偲ぶ会では、教会での悲しい雰囲気とは異なり、故人の思い出を話したり、久しぶりに会った親戚と近況を話したりする明るい場になっていた。雰囲気は、日本の葬式のあとにお寿司を食べる感じと少し似ている。

教会の後に移動する会館 このホールの隣には食事をするエリアがある

机に置かれているのは電報 内容には、みんな詩を添えてい

日本の葬儀に興味津々なフィンランド人たち
いろいろな人に日本の葬式の方法を聞かれた。その中でフィンランド人の反応がこちら。
「葬式、そんなに早くしなきゃいけないって、みんな参列できるの?」
「葬式にお金持っていくんだ。日本では結婚式の時も持っていくよね」
「火葬に遺族も?え、遺族が骨をツボに入れる?しかも箸で?!考えられないわ…どうりで日本人は小さい時から箸が使えるのか。」

最後に
葬式中のメッセージの中や、牧師の話の中、参列した人たちの会話の中にも
よく出てくる言葉があった。

“Hän lähti viimeiselle matkalle.(彼女は、最後の旅へ出発したんだ)”

この考えはおそらくキリスト教から来ているものだろう。
死はもちろん悲しいことだけれど、良いところにも目を向けよう、前を見ようという考えがフィンランドの人たちの中にはあるのだと思う。
あと、この葬儀での故人はおばあさんだった。彼女は病気で亡くなった。その病気で苦しかった時から解放されたのが何より良かった。と言う人が多かった。
亡くなった悲しみよりも、病気で苦しんでいる時の方が辛いという考え。それに加え、 数週間後に葬式を行う方法は、死を受け入れる準備が少しはできている気がする。

日本の葬式とは死の捉え方、見せ方が違うフィンランドの葬式。
日本の葬式では、棺桶を開けて、火葬場について行き、遺骨も見る。そこまで終えて
その人が亡くなったという事実を受け入れる。
日本では葬式も参加は個人の自由で、たとえその人と面識がなくても、遺族と関わりがあれば参列することも。葬式がオープンで、日本の方が死に対しては慣れているというか、身近だ。
フィンランド人は、そもそも葬儀に参列したのは子供の時。という人もいて、葬式のマナーについて知らない人が多かった。私は日本式の葬式で生きてきたので、フィンランドの葬式の方法だと、「ほんとうに亡くなったの?」と思うことも。でもどちらの国の葬式も良いと思った。

フィンランド語で墓地は Hautausmaa と言う

Aki
兵庫県出身。日本で幼稚園教諭として勤務したのち、現在フィンランドで保育士をしながら暮らしている。フィンランドでSmooth Groove Orchestraというバンドに所属している。趣味はピアノと絵をかくこと。インスタグラムhttps://www.instagram.com/finlandogo/