仕事はあまりうまくいかず、蒸発するみたいに連絡取れなくなった人がいたり、長旅の初日にキャリーケースのタイヤが壊れて、うまくいかない事が立て続けに起こり、モチベーションというモチベーションが無くなり、軽い鬱になっていると思います。その状態は6月まで続きます。そこまでは、何もしなくていいので、ただただのんびり本を読んで、なんとか生き延びてください。
8月に製作意欲を掻き立てる建築に出会います。Bepeさんのお家です。
防空壕をリノベーションして作ったこの建築は、迫力があり、遠目からでも分かるコンクリートの荒々しさが冒険心を掻き立てます。ハッキリと心臓の鼓動が早くなっているのを感じているでしょう。
外には鶏やアヒルを飼っていたり、彫刻が所狭しと並べられています。どこか日本の建築家、石山修武に近い臭いを感じ取ります。早まる気持ちは分かりますが、そのテンションで行くと最後まで持たないので、入口の扉を開ける前に深呼吸をして下さい。
中は異常なほど、静か。扉が閉まる時に音が消えていくのを、耳だけではなく、肌でも感じます。気をつけてください。若干鳥肌が立っています。それは、中が寒いからだけではありません。異質な空間を感じ取ったからです。
よく見ていくと、壁は粗いです。節の多い木を使ってコンクリートの型枠が作られており、しかもあまり精度が良くありません。所々には鉄筋がはみ出ているところもあり、かぶり厚も何もないなという感じです。ただ、壁が異常に厚い事に気がつきます。所有者(Bepeさん)にどれくらいの厚さなのか聞くと「Zwei」と言われますが、空耳ではないので繰り返し聞く必要はありません。2mです。
中に入るとさまざまな作品に出会います。ここでの作品の話は長くなるので、次回に回して先に回りましょう。
中を進んでいくと大小いくつもの部屋が見て取れます。基本的には均一の高さと性質を持ったような部屋になっています。防空壕ならではの、空間の豊かさのあまりない建築だと感じていると思います。その時突然、吹き抜け空間に出会います。
吹き抜け空間では、アート作品に惹かれるだけでなく、その空間の強さをヒシヒシと感じます。防空壕なのに、なぜここに広場的な吹き抜けを?と考えていると、横から解説が入ります。
「これね、床を切ったんだ。切った床でステージを作ってる。」
ああ、なるほど…と強引に納得して次に進んでください。でないと理解するのに30分間ここに留まることになります。ここから次第に、均一で色がないと思っていた物に、色が付き始めます。
最上階には住居がありますが、自然いっぱいで楽しい場所だなと感じ、気を緩めてはいけません。まず、植物は、野菜やフルーツがたくさんありますが、よく育っているのが目につきます。よく手入れも行き届いていると思っていると、蜂がいることに気がつきます。すかさず、落ち着いた声で説明が入ります。
「最初はうまくいかなかったから、蜂を飼うことにしたんだ。そしたら野菜の育ちもよくなるし、花も綺麗になったんだよ。」
アインシュタインを思い出しますが、その意味を説明する言葉に自信がないので、頭の片隅に留めてください。計算されているのは建築だけはない、ということだけわかればいいです。
最後に住居の部分です。
木材を基調として、大きなガラスを使ったモダニズムのような建築です。大きな空間には柱や壁はありません。目算で8m×15mある空間に柱が落ちていないのです。
外から確認すると、梁が太い。これらの材料はオーストリアから持ってきたそうですが、その理由は、その林業を行っている会社は兄弟で経営していて、管理がしっかりしているからだと。産地かどこかだけでなく、どのような管理をしている会社かを選んで買うという話を聞いて、自分のやっている事を振り返りますが、振り返り過ぎないように気をつけてください。自分の知識の乏しさを自覚すれば、前には進めます。
最後に、これ本当に自分で作ったの?と聞きます。向こうから
「そうだよ。自分で考えて作ったんだ」
と言われます。この言葉を聞いて、がぜん創作意欲が湧きます。良いものを作りたいと思っていた、大学を卒業した当時の自分を思い出し、ゆっくりでも確実に前に進む努力をしてください。
宮沢賢治を思い出しているでしょう。銀河鉄道の夜でも読んで腰を据えて、落ち着いてください。
敬具 2020年8月の下畑オリー
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