美術の中の家 第9回
犬小屋の家出(ラスト・サンポ・チバ)

2019.10.02高島 亮三
美術の中の家 第9回 犬小屋の家出(ラスト・サンポ・チバ)

【これまでのあらすじ】美術家、高島亮三(2003年当時31歳)は、美術表現の拠り所として、半年近く犬小屋との散歩に熱を上げていたが、その過程における美術表現上の浮気をキッカケに、犬小屋に対しての情熱が急速に薄れてしまっていた。

西武北野台の住宅街の眺望に一目惚れしてしまった私(詳細は第8回を参照)ではありますが、その後もなんとか犬小屋のとの良好な関係性を保とうと、荒川の土手へ散歩に出かけたりもしました。



ですが、晩秋の冷たい風は、これ以上二人(正しくは一人と一軒)との関係性の修復に努めることが、もはや無駄な悪あがきであることを暗示しているようでありました。
そして季節もすっかり冷え込んだ12月のある日、些細な行き違いから犬小屋は私の元から飛び出していったのです…

あなたと最後にケンカした日 闇に飛び出した
知らない誰かがかける声が耳にこだまする
帰ってなんかあげないわ
言えばきっと呼び止めると
思っていたのに「どうぞ」なんて あいつ
(岡村孝子「ラスト・シーン」より歌詞の一部を引用。)

闇に飛び出した~♫(岡村孝子VHS「AFTER TONE」ラスト・シーンより一部引用)

と、犬小屋が私に対して思っていたかは定かではありません(そもそも私は「どうぞ」なんて言ってないし)が、このまま自然消滅してしまうのは私としても不本意であります。次のステージに進むためにも、ここはきちんとお別れをすべく、私は急いで犬小屋の後を追いました。それにしても、犬小屋はどこに向かおうとしているのでしょうか?

どうやら千葉県印西市立いには野小学校付近を通過したらしい

どうやら千葉県芝山町立芝山古墳・はにわ博物館付近を通過したらしい

上記の目撃情報の経由地から考察し、私は犬小屋の向かう先に心当たりがありました。2時間ドラマの方程式に従えば、ドラマのラスト・シーンは断崖絶壁の岬と相場が決まっているからです。私の予想通り、犬小屋は千葉県の銚子駅前にいました。

その後も犬小屋をこっそりと尾行していきます。ああ、悲しみの中、浜辺を歩いてゆく犬小屋の美しさよ。

犬小屋が向かっている先、もうお分かりでしょう。銚子のはずれに位置する犬吠埼です。

犬小屋が 別れを吠える 犬吠埼
それでは皆様、犬小屋の哀しみの咆哮にしばらくお付き合いください。(ちょっと、長いですよ。)

穏やかに暮れてゆく
遠い空を見つめてる
あの頃の二人には
今はきっともどれないね
(岡村孝子「あなたと生きた季節」より歌詞の一部を引用。)

潮の香りの中 二人黙ったまま
別れの気配を 悲しいほど感じて
夕べ考えてた言葉 口にできずに
私の気持ち知らずに 行ってしまうのね
(岡村孝子「潮の香りの中で」より歌詞の一部を引用。)

あなたはたぶん変わってゆくのね
悲しいけれど 見送るわ
あなたがいつか変わってゆくのを
私はここで見送るわ
(岡村孝子「見送るわ」より歌詞の一部を引用。)

苦しいことに つまづく時も
きっと 上手に 越えて行ける
心配なんて ずっと しないで
似てる誰かを愛せるから
(岡村孝子「夢をあきらめないで」より歌詞の一部を引用。)

見返してやるんだわ あなたのこといつかは
あなたより素敵な人 いない訳はないよのよ
(岡村孝子「見返してやるんだわ」より歌詞の一部を引用。)

やさしい言葉も愛もいらない 思い出に変えたわ
たぶん相手があなたじゃなくても幸せになれるわ
(岡村孝子「美辞麗句」より歌詞の一部を引用。)

さよなら 私が決めた答えだから
想い出抱きしめ 心の瞳をとじた
(岡村孝子「Believe」より歌詞の一部を引用。)

瞳をとじた~♫(岡村孝子DVD「EncoreⅡ」Believeより一部引用)

あ~、これは重たい。あまりに重すぎる犬小屋の恨み節(孝子節)、しっかりと受け止め今後の美術活動の糧にさせていただきます。どんなことでも別れは辛いものです。本コラム史上、一番ヘビーな内容になってしまいましたが、気を取り直して新しいスタートを迎えることにしましょう。これからの「美術の中の家」は「犬小屋(ケンネル)」から「人小屋(ジンネル)」へと「家」の概念が進化していきます。それでは次回、心機一転の「人小屋の住人(善福寺公園編)」をお楽しみに!

【追記】
当コラムにおいて、ここぞの場面で歌詞を引用(今回はちょっと多かったかな?)させていただいているシンガーソングライターの岡村孝子さん。今年の4月に急性白血病と診断され長期入院中でしたが、9月21日(土)に無事退院された事が公表されました。次の段階に向け、引き続きゆっくりご静養ください。

高島 亮三
高島亮三(たかしまりょうぞう、1972年8月4日~)は、日本の美術家。東京都保谷市(現・西東京市)出身。趣味は、路傍の石採取・コケ鑑賞・ミニ四駆・岡村孝子など。第4級アマチュア無線技士。 http://takashimaryozo.com/