フィンランドのあれこれ
第6回目 フィンランド語が話される空間で暮らす

2021.07.10Aki
フィンランドのあれこれ 第6回目 フィンランド語が話される空間で暮らす

フィンランドに暮らし始めて今年で8年目になった。フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語。ヘルシンキを旅行したことのある人なら分かると思うけれど、店員や町の人々は英語も話す。店員に至っては英語が基本スキルのように、こちらが外国人と分かった時点で英語で接客が始まるのも普通だ。店員や医療機関の職員のバッジには話せる言葉の国旗がズラリと並んでいる人も少なくない。が、このインターナショナルな感じはヘルシンキ特有のものだと思う。

英語を話している時のフィンランド人はクールな感じ

私は昨年から首都ヘルシンキに住んでいるが、それまではコトゥカというロシアに近い東フィンランド、人口5万人の町に住んでいた。コトゥカでは、90%の確率でフィンランド語での会話になる。たまに一生懸命英語で話を始める人もいるけれど、フィンランド語のアクセントが効いた英語で、Rはもちろん巻き舌で発音される。
ヘルシンキでもコトゥカでも共通していることがある。それは、フィンランド人は英語を話す時とフィンランド語を話す時とで表情が違う。私の印象では、英語を話している時のフィンランド人はキリっとしている。言葉を変えて言うならば少し冷たい印象がある。もちろん母国語のフィンランド語の方が流暢なのは当たり前なので、表情が柔らかくなるのは自然なことだと思う。一般的に英語は顔の表情を沢山使って話す言語に対し、フィンランド語は氷点下30度の中でも会話できるように、口元の筋肉だけを使っても話すことのできる言語だ。不思議なことに、それが実際会話をしていると、英語の方がなんだかちょっとしか顔の筋肉を使わないぶっきらぼうな感じで、フィンランド語の方が情緒豊かに聞こえる。

シナモンロールはフィンランド語でコルヴァプースティ ―耳をぶつという意味

フィンランド語をかわいいと言う日本人、意味不明という外国人

最近日本では、フィンランド語はかわいい言葉として認識されていることが多い。そんな風に捉えているのは日本ぐらいじゃないかなと思う。フィンランド語がかわいいと思われる理由の一つに、響きがかわいい単語が多くある。例えば、こんにちはは、“モイモイ”、うさぎは“ププ”、ポンプは“プンップ”、ニット帽は“ピポ”、ナイフという鋭利なものもフィンランド語では“プーッコ”となんともかわいらしい響きになる。ちなみに私が思うフィンランド語で一番かわいい言葉は、“プンプリプイッコ”意味は綿棒。
このかわいい響きの言葉たちが、老若男女問わず使われる。ヒゲがボーボーのがたいのいいおじさん達も、タバコを片手にガムをくちゃくちゃ噛んでいる若者も、歩行器を押しながら歩くおじいちゃんおばあちゃんもみんな使う。
フィンランド語にはパ行やマ行がよく使われ、それらに促音や長母音が加わることでかわいさが増しているのだと思う。ここでかわいいと思えるのは、日本語にも促音や長母音があるからだ。促音と長母音がほかの外国語話者にとってはとても難しいらしい。彼らにしたら、フィンランド語がかわいいなんて思ったことは恐らく一度もないだろう。
と、そんなかわいいイメージのフィンランド語だが、この言語は世界の言語の中でとても難しい部類に入るらしい。これはもちろん自分の母国語が何かで難易度は変わるけれど。フィンランド語が難しいと言われる背景にはいくつかの理由がある。代表的なのは、15種類ある格変化だ。日本語でいう、てにをは等の助詞にあたる。15種類と言うけれど、フィンランド語は単数形と複数形で格変化が異なるので、実際は倍の30種類だ。フィンランド人たちもこの格変化を理解していないことが多々ある。フィンランド語の質問をフィンランド人にすると必ずと言っていいほど、みんな黙って考え込む。そして“わかんない”とか、“誰か他の人に聞いて”と考えることを放棄する。日本でフィンランド語を勉強していた私は周りから変人扱いを受けていた。フィンランドに来ても、「なんでフィンランド語勉強してるの?!」と変人に見られていることが多い。そして「フィンランド語難しいでしょ」と嬉しそうにいつも聞いてくる。フィンランド語が難しい言語だと話すフィンランド人たちは、いつも誇らしげだ。

意味不明と言われるフィンランド語

略されるフィンランド語

フィンランド語で私は、minäと言い、話し言葉になるとmäとなる。日本語で考えると、私を“わ”って言うような感じかな。Coca-Colaはkokis、hampurilainen(ハンバーガー)はhamppari パソコンは、kannettävä tietokone と言うが、話し言葉ではläppäriとなりもはや原型をとどめない。ちなみにこれは英語のlap topがもとになっている。色々略されるフィンランド語だが、大晦日を意味するuudenvuodenatto(ウーデンヴオデンアーット)などは省略されずにそのまま使われる。

公用語が二つあるということ

フィンランドではフィンランド語とスウェーデン語が公用語なので、町の表記は二か国語であらわされることが多い。昔、映画を見に行った時に、字幕がフィンランド語とスウェーデン語の二段構成になっていた。画面の3分の2を覆いつくす勢いだった。バスやトラムの表記も、フィンランド語→スウェーデン語という表記がされるので、自分が降りたい停留所の名前が何か分からなくなる。通りの名前もフィンランド語、スウェーデン語の二段構成だ。その昔、フィンランド語を知らない時にフィンランドを旅行した時、なんと長い名前の通りなんだと思っていた。なので、フィンランド語の中にはスウェーデン語から影響を受けた単語も多い。ヘルシンキの電車ホームの電光掲示板には、フィンランド語、スウェーデン語、英語と次々に表記が変わるので、行先や時刻を確認するのが大変だ。スーパーの食料品も二か国語表記なので、フィンランド語が分からなくても、なんとなく英語に似ているスウェーデン語で食べ物の内容を知ることができる。

左からフィンランド語、スウェーデン語、英語

フィンランド語の敬語はゆるい

日本語話者の人からすると、フィンランド語の敬語はほんとうにゆるい。フィンランドで敬語が使われる時は、高齢者の人と話す時と接客の時だ。でもこれも厳密に言うと、初対面の高齢者と接客のような気がする。ある程度会話をすると、敬語は消えていく。おじいさん、おばあさんの方から「敬語は使わなくていい」と言うパターンもあるそう。
なので、先輩後輩のような一年だけ歳が離れていても敬語、入社が後であれば、年上でも年下に敬語という文化はフィンランドにはない。店員とも友達と話す感覚で話すことができるので、結構気が楽だ。警察官と話す時も、医者と話す時もいつも通りに話す。職場でも若者がコーヒーを用意する、荷物を運ぶなどの雑用が回ってくることもない。会議でも上の人が言うことを聞いたうえで、自分の発言をという気配りも必要ない。言いたいことを言う。これは敬語の文化の有無というよりかは、平等意識や個人の権利の意識が高いからなのかなと思う。ちなみに、様々な意見や要望が飛び交うので、フィンランドの管理職は大変だと思う。

フィンランドにはたくさんの移民が暮らしている。若者のフィンランド語はどんどん変化している。移民の母国語とフィンランド語がミックスされる。若者たちは英語を交えて話すフィンランド語かっこいいと思う傾向があるらしい。そしてかなり早口。街中でも、外国語と思っていたらフィンランド語を話していたということはよくある。
私は、おばあさんや50-60代の女性の話すフィンランド語が一番聞き取りやすいと思う。ゆっくりで、丁寧で相手のレベルに合わせてくれるというか。その次が子供のフィンランド語。一番何を話しているのかわからないのは、若者と電化製品で働く男性店員の話すフィンランド語。

HOMEはフィンランド語でカビという意味

Aki
兵庫県出身。日本で幼稚園教諭として勤務したのち、現在フィンランドで保育士をしながら暮らしている。フィンランドでSmooth Groove Orchestraというバンドに所属している。趣味はピアノと絵をかくこと。インスタグラムhttps://www.instagram.com/finlandogo/